旅行雑誌を買い求める。予約サイト(OTA)で検索する。Google マップと Instagram でビジュアルと口コミをみる——ホテルを探す手段は、時と共に変化してきました。そのたびに、ホテル側でも OTA マーケティング、SEO、SNS のアルゴリズム、MEO といった工夫が続いてきました。変化の激しいこの業界で今日、新たなゲームルールが生まれようとしています。それが AI 検索です。
Gemini に旅程を相談し、ChatGPT に条件を伝えて宿を絞り込み、Google AI Overview で確認する……今はまだ AI 検索によるホテルの決定は限定的かもしれませんが、この新たな行動は急激に拡大していることが明らかになっています。数年先には、旅行者は AI に自分に合ったホテルを勧めてもらい、AI が推薦しないホテルは旅行者にとって「存在しない」のと同じになる……そんな未来が来るかもしれません。
本調査は、Cloudbeds 社が2025年に行った世界的な大規模調査(Cloudbeds、2025)を先行研究とし、生成 AI がどのようにホテルを推薦するか、推薦されるホテルになるために何が必要かを日本の6都市・3つの AI モデル・540クエリで研究しました。
本研究は、ホテルの生成 AI 検索に特化した日本初の大規模調査です。AI 時代にお客様から選ばれるホテルになるために、ぜひご一読ください。
昨今、生成 AI の影響で、旅行者の行動が静かに、しかし不可逆に変わりつつあります。Booking.com が33市場・3.7万人以上に実施した大規模調査(Booking.com、2025)では、3人に2人はすでに旅行に関して AI を利用しており、65% が近い将来、自動旅行プランニングが主流になると予想しています。
日本市場においても変化は顕著です。JTB 総合研究所の定点調査では、生成 AI による情報検索は2024年の9.7%から2025年に28.8%へと約3倍に増加(JTB総合研究所、2025)。別の調査では、旅行計画で生成 AI を使ったうち84.1%がなんらかの「新しい発見があった」と回答、半数以上が AI の提案先に訪問していました(宿研、2026)。
上記のように、海外では近年、AI ホテル推薦に関する本格的な調査が次々に公開されています。しかしこれらは米国・欧州・そして時にアジアといった混合市場を対象としています。日本固有の市場構造、例えば国内 OTA やまとめサイトの多様性、日本語クエリの特性については考慮されていないのです。
そのため我々は、Cloudbeds の調査を先行研究に、初となる日本のホテル市場に特化した体系的な AI 推薦ホテル調査を行うことにしました。
使用上の注意と限界
本レポートで提示している AI のレコメンデーション傾向は、特定の時期に実施した観測データに基づき限られた分析手法に基づいたものであり、一つの視点として捉えていただくのが適切です。得られた結果は相関関係を示すにとどまり、AI の特性上、直接的な因果関係を証明するものではない点にご留意ください。
AI 技術は日々急速にアップデートされているため、今回の知見はあくまで「今の記録」であり、将来の振る舞いを予測するものではありません。レコメンデーションのパターンは、対象の業界や地域、質問の仕方、時期によっても流動的に変化することを前提としています。
調査手法
ステップ1:対象都市と AI モデルの選定
異なる特性を持つ6つの多様な旅行目的地が選択されました。
対象都市
特性
浅草(東京)
都市・文化・和モダン観光
箱根(神奈川)
温泉・自然・リゾート型観光
金沢(石川)
伝統文化・歴史・食観光
京都(京都)
歴史・カルチャー・インバウンド観光
名古屋(愛知)
ビジネス・都市型観光
那覇(沖縄)
リゾート・ビーチ・南国観光
分析対象 AI モデル(これら3つのプラットフォームが日本の主要 AI トラフィックの大部分を占めると判断しました)。
モデル(提供元)
概要
ChatGPT(OpenAI)
世界最大シェアの AI チャットボット
Gemini(Google)
チャット型 AI アシスタント
Google AI Overview(Google)
Google 検索エンジンに統合された AI 回答
ステップ2:プロンプト設計
一般的なホテル検索を目的とするプロンプトを、3つの異なる自然な表現で設定しました。
プロンプト
種別
プロンプト内容(例:浅草)
P1
汎用おすすめ
「浅草のおすすめホテルトップ5を推薦してください」
P2
旅行プラン
「1泊2日の浅草旅行で泊まるのに良いホテルを教えて」
P3
条件指定
「浅草で、[日付]に、1人3万円以下で2名で泊まれるレビュー星4以上のホテル」
ステップ3:大規模クエリの実行
Peec AI を使用して、精度と一貫性を確保するために10日間に分けて計540のクエリが実行されました。各アウトプットはホテルのメンション(回答ごと上位5つまで)、引用 URL について分析されました。このデータは2026年3〜4月に収集されました。
ステップ4:OTA 対照群との突き合わせ
じゃらん・楽天トラベル・一休.com・Booking.com・Google マップのエリア別検索結果上位30施設(おすすめ・関連度順ソート)を調べ(以後、OTA◎タイプと呼びます)、ステップ3で得られた AI 推薦ホテルリスト(以後、AI◎タイプ)と比較しました。これにより、AI 推薦と OTA 上位掲載に相関があるかを確認できます。
また Cloudbeds 社の先行研究には対照群が設定されておらず、AI 推薦されるホテルの特徴をとらえるには限界があると考えました。そのため、AI◎タイプの特徴を集計するだけでなく、OTA 掲載上位でかつ AI に安定して推薦された施設(以後、AI◎OTA◎)と、OTA 掲載上位ではないが AI に安定して推薦された施設(以後、AI◎OTA△)を比較しました。
以上の分類をまとめたのが下記の表です。
AI推薦
タイプ
定義
本調査との関連
AI◎
3種類のプロンプトすべてで1回以上推薦
調査で使用
AI◎OTA◎
1つ以上の OTA で30位以内表示かつ3プロンプト全てで推薦
調査で使用
AI◎OTA△
5種類すべての OTA に不在/低順位だが3プロンプト全てで推薦
調査で使用
AI△
1,2種類のプロンプトで1回以上推薦
AI△OTA◎
1つ以上の OTA で30位以内表示だが特定プロンプトのみで推薦
AI△OTA△
5種類すべての OTA に不在/低順位だが特定プロンプトでは推薦
AI×
AI×OTA◎
1つ以上の OTA で30位以内表示だが AI 推薦ゼロ
※ AI…3プロンプト全てで推薦:◎ / 1,2種類のプロンプトで1回以上推薦:△ / AI 推薦ゼロ:×
※ OTA…1つ以上のサイトでエリア検索の上位30位以内:◎ / そうではない:△
ステップ5:引用分析
各 AI レスポンスから収集した1,694ユニーク URL について、「Citation rate(AI が引用した頻度)」を算出しました。それらをカテゴリ別・ドメイン別に集計し、傾向を先行研究と比較しました。
結果
[1] ホテル調査
結果1-① AI 推薦ホテルの全体像(6都市)
363施設の OTA 上位掲載ホテルが、AI に一度も推薦されなかった
OTA 上位30位以内でも AI にまったく推薦されないホテルが、調査した OTA 上位ホテル全体の5割を占める結果になりました。OTA マーケティングに投資していても AI に推薦されるとは限らないという結果です。
AI 回答から取得されたホテルを、タイプ別に集計したところ下記の結果となりました。
AI推薦
タイプ
定義
件数
AI◎
3種類のプロンプトすべてで1回以上推薦
74(8.5%)
AI◎OTA◎
1つ以上の OTA で30位以内表示かつ3プロンプト全てで推薦
61
AI◎OTA△
5種類すべての OTA に不在/低順位だが3プロンプト全てで推薦
13
AI△
1,2種類のプロンプトで1回以上推薦
432(49.4%)
AI△OTA◎
1つ以上の OTA で30位以内表示だが特定プロンプトのみで推薦
296
AI△OTA△
5種類すべての OTA に不在/低順位だが特定プロンプトでは推薦
136
AI×
AI×OTA◎
1つ以上の OTA で30位以内表示だが AI 推薦ゼロ
363(41.5%)
合計
(6エリア5サイトの OTA30位以内+AI検索のみ登場したホテル)
869(100%)
全プロンプトで安定して AI 推薦される「AI◎」タイプは登場ホテル全体のわずか8.5%。逆に、OTA 上位にも関わらず一度も推薦されなかった「AI×OTA◎」は登場ホテル全体の4割を占め、特定のホテルのみに AI 推薦が偏っていることがわかります。
AI◎のホテルは、先行研究と同様、主要な外資・日系 OTA や口コミサイトで85点(換算)以上の高いゲスト評価を獲得していました。
ただし、AI に推薦されるホテルは大量のレビューを得ていたと指摘した Cloudbeds の先行研究と比較すると、本調査の平均レビュー数は150〜2062件と、口コミの数がさほど多くなくても AI 推薦は起こることを示唆する結果となりました。実際に、じゃらんや一休上では「口コミ数が少ないためスコア非表示」の施設も、AI に推薦されていました(スコア表示施設数に記載)。
OTA・口コミサイト
平均スコア
平均レビュー数
スコア表示施設数(/74)
Tripadvisor
4.3/5「とても良い」
608
73
Booking.com
8.9/10「すばらしい」
2032
69
Expedia
9.2/10「すばらしい」
948
72
Google マップ
4.4/5(定義なし)
2062
74
楽天トラベル
4.5/5「満足」
1529
72
じゃらん
4.3/5「満足」
1586
64
一休
4.42/5「満足」
150
64
結果1-③ 比較分析 — 「AI◎OTA◎」 vs 「AI◎OTA△」
OTA 上位かつ AI にも安定して掲載される「AI◎OTA◎」ホテルは、OTA を含むマーケティングにコストを割ける施設だと予想されます。一方で、OTA 上位ではないものの AI に安定して推薦される「AI◎OTA△」ホテルも13件存在し、AI に推薦されるためには必ずしも OTA 投資が必須ではない可能性が示唆されます。
OTA 掲載上位に入れなくても AI に推薦されやすい施設の特徴を調べるため、それら2タイプの共通点と相違点を比較しました。
※ AI◎OTA△の数が13件と少ないため、あくまでも参考結果となります。
海外含む UGC や OTA でのレビュースコアの強化でオンラインプレゼンスを上げると、OTA 掲載上位でなくても AI 推薦される可能性が上がる
AI は、OTA 上の順位だけではなく、編集メディアや口コミサイトといった異なる評価軸も持ってユーザーにホテルを推薦していることがわかりました。そのため、OTA だけにマーケティングコストをかけていては、将来的には AI から・すなわち旅行者から選ばれなくなる可能性があります。また現状 AIO 対策ができているホテルはわずかで、早期から取り組む価値があります。
OTA 掲載上位ではないが AI に推薦されやすい施設の特徴として、OTA に限らず多様なサイトで露出があり、良質な口コミが得られることがありました。特に OTA マーケティングにリソースを割きづらい施設は、tripadvisorやredditを含む国内外の口コミ管理に力を入れることが推奨されます。
示唆③ 施設の魅力を「第三者の声」で語ってもらうことが重要
OTA と公式サイトの引用率は海外の先行研究の半分以下
その分、編集メディア・UGC が引用される(国内サイトを含む)
先行研究と異なり、日本においては、AI はホテルの公式サイトや OTA よりも第三者が書いたコンテンツを優先的に引用する傾向が明らかになりました。そのため少なくとも現在は、AI からホテルの個性や魅力を理解され、推薦されやすくするには、旅行メディアやまとめ記事を通して施設の魅力を発信することが重要だと考えられます。
ホテル経営者へのアクション提案
アクション
優先度
即効性
ゲストからレビューサイトで口コミを投稿してもらい、返信・管理で質を上げる
高
高
まとめ記事への掲載を戦略的に求める
高
中
TripAdvisor を中心に、OTA の情報を充実させる
中
高
公式 HP の AI 可視性を高める
中
小
まとめ
調査の結果、Cloudbeds 社の先行研究と日本市場では興味深い共通点と相違点があることが明らかになりました。少なくとも現在の日本では、「編集メディアや口コミサイトに AI に読んでもらうコンテンツを増やすこと」が主な戦略になると考えられますが、AI 推薦はまだまだ伸び代のフィールドで、今後の流れを注視する必要があります。
また、今回の汎用クエリ調査で見えてきた構造は、あくまで入口に過ぎません。私たちは、現実のユーザーはより具体的な問い(例えば、「思い出に残る記念日旅行のために淡路島で2人で10万円以下で泊まれるホテルを探して」など)を AI に投げかけるだろうという仮説を持っています。
そのニーズに応える施設として AI に発見されるためには、施設自身のオリジナルな訴求軸を明確に持ち、それを AI が読める形で・読める場所に置いておく必要があるでしょう(こちらについては、現在追加調査を進めています)。
数年後の AI ホテル検索のポジションを獲得するために、今から始められることは数多くあります。
終わりに
CHILLNN AIO Lab では、今後も調査を続けるとともに、世界各地でのホテル AI 検索リサーチの紹介や宿目線での解釈を続けていきます。
本調査の結果から、生成 AI に安定して推薦されるホテルにはいくつかの共通点があります。例えば、TripAdvisor をはじめとする予約サイトや口コミプラットフォームでのレビュースコアが高いこと。また、旅行メディアやブログによる第三者コンテンツが豊富に存在することなどです。まずは、自施設が「どこにどんな情報が存在するか」の棚卸しから始めることをおすすめします。
Q
OTA に掲載していないと AI 推薦には選ばれませんか?
本調査では、OTA に非掲載/掲載順位が低いにもかかわらず1つ以上のプロンプトで AI に推薦された施設が149施設存在しました。OTA への掲載自体というよりも、OTA を含む第三者コンテンツでどれだけ露出されているか・魅力が紹介されているか(旅行メディアへの掲載・口コミ対応・SNS 言及)が AI 推薦に影響すると考えられます。
Q
YouTube や SNS に投稿すれば AI に引用されますか?
本調査では、YouTube の引用率は全ドメインにおいて6位と高い順位であり、効果はあると考えられます。ただし AI はテキストでユーザーに推薦をするため、SNS・動画投稿の効果を高めるために、動画の概要欄・字幕・テキスト記事との連動が重要です。また、宿泊者など第三者による発信を促す施策のほうが AI 推薦には効果的です。
Q
「ホテルの AIO 対策」と「SEO 対策」は別々に行う必要がありますか?
Google AI Overview 引用の97%が Google の上位20位以内にすでにランクインしているページから発生しているという調査結果([Semrush、2025](https://www.semrush.com/blog/ai-mode-comparison-study/))があります。つまり従来の SEO 基盤の上に AIO 最適化を積み重ねる形が現実的です。ただし、AI 最適化特有の要件(FAQ 形式・構造化データ・第三者権威コンテンツ)は SEO とは独立した投資として考えることが長期的には効果的です。
Q
独立系の旅館・小規模ホテルでも AI 対策は意味がありますか?
海外の調査([Hotelrank.ai、2026](https://hotelrank.ai/research/ai-hotel-landscape-2026))によれば、ラグジュアリーセグメントでは独立系が58.4%の推薦シェアを獲得しています。また私たちはニッチなプロンプトになるほど独立系・小規模でユニークな施設が AI 推薦されるという仮説を持っており、今後調査をすすめてまいります。