背景と目的
第1回調査から生じた問い
2026年4月、CHILLNN AIO Labは国内6都市・3AIモデル・540クエリを対象とした調査により、AIによるホテル推薦の構造を日本で初めて大規模に可視化しました(CHILLNN AIO Lab、2026年4月 )。その結果、2つの重要な事実が明らかになりました。
1つは、「OTA上位であることとAIに推薦されることは別である」 点です。OTA検索上位30位以内に入るホテルのうち約半数はAIから一度も推薦されず、逆にOTA上位外でありながら複数のAIモデルから安定して推薦される施設が一定数存在しました。
もう1つは、「推薦されるホテルに共通していたのは、オンライン上のプレゼンスの広さと、第三者コンテンツの充実だった」 という点です。海外の先行研究(Cloudbeds, 2025 )と比較すると、日本ではよりまとめサイトなどの第三者コンテンツが引用される傾向にありました。
しかしこの調査には限界がありました。それは、使用したプロンプトがすべて「◯◯のおすすめホテルトップ5を推薦してください」といった汎用的なものだったことです。この設計は推薦の全体像をつかむうえでは有効ですが、一つの疑問が残ります。
果たして、旅行者が具体的な目的や条件をAIに伝えるリアルなシーンでは、推薦されるホテルの顔ぶれは変わるのでしょうか。
旅行者の「問いかけ」はますます具体的になっている
AIによる情報収集が旅行計画に浸透するにつれ、旅行者の検索行動にも変化が起きています。web上のキーワード検索では「箱根 温泉 ホテル」と入力するしかなかった旅行者が、AIには「露天風呂から富士山が見えて、地元の食材を使った夕食が食べられるホテルを教えてほしい」と話しかけることができます。
この背景には、旅行に求めるものの多様性があります。ある意識調査(JTB総合研究所、2024 )によれば、国内旅行の目的は「食事・地域の味覚」「リラックス・のんびり」「温泉」「自然や風景」「パートナーとの時間」など多岐にわたります。
目的は決して「良いホテルに泊まる」という一般的なものではなく、シチュエーション・同行者・その旅に何を求めるかによって細かく異なるのです。AIはこのニッチなニーズをそのまま受け取れるインターフェースであり、旅行者はその特性を直感的に使いはじめていると推察されます。
本調査の仮説と目的
ここから、本調査では一つの仮説を設定しました。
クエリが具体的でニッチになるほど、AIが推薦するホテルも個性あるニッチなホテルになる。 つまりOTA上位に登場しなくても、特定のシチュエーションに対応できる個性のあるホテルが、ニッチなクエリでは浮上してくるのではないか。
本レポートはこの仮説を定量・定性の両面から検証することを目的とします。JTB総合研究所の国内旅行の目的に基づいて5つのペルソナ・目的を設定し、そこから5種類のニッチクエリを生成。対応する5都市に割り振り、AIの回答を収集しました。さらにケーススタディとしてAIによく引用された2施設を取り上げ、引用URLを詳細に分析しました。
前回調査で用いた汎用クエリ(1種類)との比較を通じて、ニッチクエリが推薦ホテルに与える影響を明らかにし、「ホテルがAIに個性を届けるとはどういうことか」 の解像度を上げることを目指します。
調査について
クエリ設計
JTB総合研究所の意識調査(JTB総合研究所、2024 )によれば、国内旅行の主な目的のTOP5は「食事・地域の味覚を味わう」「リラックスする、のんびりする」「温泉でゆっくりする」「自然や風景を楽しむ」「家族親族・パートナーとの時間を楽しむ」でした。これらにボリュームが多いと想定される出張利用を加え、5つのペルソナとシチュエーション・エリアを設定し、旅行者が実際にAIへ投げかけるであろう自然な表現でクエリを構成しました。
エリアは先行調査と比較しやすいよう、金沢・那覇・京都・名古屋・箱根の5都市としました。
データ収集期間:2026年4月27日〜5月7日
AIモデル・OTA対照群・クエリ対象群
上記5種類のニッチクエリを、先行調査と同じ3種類のAIモデル(ChatGPT、Gemini、Google AI Overview)に投入し、先行調査で収集した通常クエリ(P1:「◯◯のおすすめホテルトップ5を推薦してください」)のデータを対照群として、推薦ホテルを収集・分析しました。
また、第1回と同一のOTA上位掲載リスト(じゃらん・楽天トラベル・一休.com・Booking.com・Google マップの5媒体、各エリアの関連度順上位30施設まで)を使用し、AI推薦ホテルとOTA上位ホテルを比較しました。
分析
3つの観点から分析を行いました。
① ホテル分析
通常クエリ(P1)とニッチクエリで、ニッチであると解釈できるAI◎OTA△ホテル(※)の推薦率がどう変わるかを比較しました。5つのニッチクエリ全体での集計に加え、クエリ別の傾向も確認しています。
(※)AI推薦されるがOTA掲載上位30位以内ではないホテル群。他のカテゴリなど、詳細は先行調査レポート をご覧ください。
② 引用分析
各AIモデルの応答において実際に引用されたドメインを収集し、引用回数を集計しました。前回の通常クエリ調査との比較を行い、どのカテゴリの引用が増減したかを確認しました。
③ ケーススタディ
通常クエリよりもニッチクエリで推薦回数が大きく増加したOTA△ホテルを2つ選定し、引用URLすべての分析を行いました。どのページが引用されているか、どんなまとめ記事で紹介されているかを丁寧に確認することで、ニッチクエリで浮上するホテルに共通する情報の特徴を探りました。
KUMU 金沢 by THE SHARE HOTELS (通常クエリ2回 → ニッチクエリ21回)
箱根吟遊 (通常クエリ4回 → ニッチクエリ12回)
調査の限界と留意点
本レポートで提示するAIのレコメンデーション傾向は、特定の期間(2026年4月27日〜5月7日)に実施した観測データに基づくものであり、一つの視点として捉えていただくことが適切です。得られた結果は相関関係を示すにとどまり、直接的な因果関係を証明するものではありません。
また、本調査の結果の解釈はAIの回答パターンから推察したものであり、AIの内部処理を直接観察したものではありません。引用URLの詳細分析は2ホテルに限られており、ここから得られた知見がすべてのホテルに普遍的に適用できるかどうかはさらなる調査が必要です。また、AI回答に含まれるホテルの説明内容の真偽については、本調査では検証を行っておりません。
AI技術は日々急速にアップデートされているため、今回の知見はあくまでも現在の記録となります。レコメンデーションのパターンは対象の業界や地域・質問の仕方・時期によっても流動的に変化するため、将来の振る舞いを予測するものではない点にご留意ください。
結果
ホテル分析
5エリア全てで、ニッチクエリのAI◎OTA△率が通常クエリを上回る結果となりました。
(ニッチクエリでのAI◎OTA△率)ー(通常クエリでのAI◎OTA△率)の差分の平均は+18.0pt 、最大は金沢の+35.0pt 。
この結果より、ユーザーが「目的・属性・シチュエーション」等を絞り込むと、AIはOTAのランキングロジックとは異なる選定基準でホテルを推薦する傾向が強まる ことが示されました。
ニッチクエリでOTA△ホテルが浮上する 通常クエリとニッチクエリのAI◎OTA△率を5エリアで比較したダンベルチャート。すべてのエリアで上昇し、最大差分は金沢の+35pt、平均は+18pt。 ニッチクエリでOTA△ホテルが浮上する 5エリアすべてで上昇、最大+35pt ニッチクエリ 通常クエリ 金沢 パートナー 那覇 子連れ 名古屋 出張 京都 リラックス 箱根 温泉・食事 0 20 40 60 80 AI◎OTA△率(%) ※最大35pt、平均18pt クエリごとに結果の詳細を見ていきます。
引用分析
5クエリ中4クエリ以上で引用されたドメインを調べたところ、通常クエリとは異なる結果となりました。tripadvisorが上位なのは先行調査と一致しますが、一休などの高級ホテルOTA、icottoなどのメディアがより上位に登場しています。
また引用回数を基準とし、一部のクエリでのみ出現したドメインも加えると、高引用ドメインにホテルの公式サイト が登場しました。これは公式サイトの引用が非常に少なかった(0.24%)先行調査とは異なる特徴です。
引用ドメインをカテゴリ分類すると、下記の結果になりました。先行調査とは大きく異なり、ホテル公式サイトの割合が大きく上がっています 。
(注)すべての都市で引用されたドメインは数が少なかったため、一定のクエリ網羅性を担保するために4都市以上に限定しました。
(注2)引用回数(Cit)=全クエリ(5種)×全AIモデル(3種)の応答において、あるドメインが実際に引用された回数の合計。
ケーススタディ
どのような情報をAIが引用しているか確認するために、通常クエリよりニッチクエリで引用回数が大きく増加した2つのホテルを、ケーススタディとして詳細にみていきます。対象のホテルが登場した回答におけるすべての引用サイトを調べ、対象ホテルの出てくるURLを抽出しました。
① KUMU 金沢 by THE SHARE HOTELS(通常クエリ2回 → ニッチクエリ21回)
金沢のデザインホテルで、たとえば下記のように紹介されています(本調査ではAI回答の真偽の判定はしていません)。
抽出された引用URLは、公式サイト・予約サイト・まとめサイト・SNSの口コミなど幅広いwebサイトで紹介されているのが特徴的でした。前回の調査結果と同様に、地域特化型のメディアにも取り上げられています。
メディアやまとめ記事、UGCは「おしゃれ」「カップル」「記念日におすすめ」といった言及があり、対照的に公式や関連会社は建築やインテリアについての解説がありました。
「金沢へパートナーの誕生日旅行に行きます。センスの良いパートナーが喜んでくれそうな建築・インテリアにこだわりがあるホテルを5つ教えてください」というクエリに対して、AIが「金沢 ホテル インテリア」「金沢 カップル 誕生日旅行」などのサブクエリを生成して検索し、両方で検索結果の豊富だった「KUMU 金沢」が推薦された と予想されます。
② 箱根吟遊(通常クエリ4回 → ニッチクエリ12回)
箱根の温泉旅館で、たとえば次のように紹介されています。
箱根の温泉旅館の特徴として、主だったまとめサイトに載る宿は限られており、ニッチクエリの回答が通常クエリと共通している傾向があります。ですが対象とした「箱根吟遊」は通常クエリでの言及回数が少なく、OTA上位でもない宿であり、主なまとめサイトでの言及もほとんどありませんでした。
代わりに、網羅的・機械的にまとめられた複数のアフィリエイトサイト で言及があったのが特徴です。ここから、人が読みやすいようにデザイン性に配慮しなくても、AIにとって読みやすい構造化されたデータであれば引用されることが推測されます。
引用されたサイトは「温泉旅館」「料理が美味しい旅館」の2つの切り口であり、ここでも「箱根への旅行で、温泉や露天風呂に浸かりながら、地域の食材や地元の味覚を楽しみたいです。合うホテルを5つ教えてください」というクエリに対してAIがサブクエリを「箱根 温泉旅館」「箱根 ご飯が美味しい旅館」として検索したと考えられます。
この調査で何がわかったか
示唆①:エリアによらず、ニッチクエリではAIとOTAの推薦が乖離する
調査したすべてのニッチクエリにおいて、AI◎OTA△率が通常クエリを上回りました。重要なのは、この現象が特定のエリアや条件に限られるものではなく、調査した全てのエリアで一貫して観察された点です。
旅行者が「目的・属性・シチュエーション」などを絞れば、AIはOTAのランキングロジックとは異なる基準でホテルを選ぶ──これはAIO時代のホテルマーケティングに変化をもたらす、普遍的な法則と言えます。
示唆②:AIはサブクエリを生成し、複数サイトを横断して答えを探している
本調査のケーススタディでは、AIの引用するサイトは大手まとめサイトだけでなく、公式サイト・地域の観光サイト・アフィリエイトサイト・UGCなど多種のwebサイトなど多岐にわたりました。
ここから、AIがニッチクエリを受け取る際の処理の仕組みが推測できます。たとえば「金沢へパートナーの誕生日旅行に行きます。建築・インテリアにこだわりがあるホテルを教えてください」というクエリに対して、AIは「金沢 ホテル インテリア」「金沢 カップル 誕生日旅行」といった複数のサブクエリを内部的に生成し、多様なサイトを横断した検索結果を比較して、両方の条件を満たすホテルを探している と推察されます。本プロセスにおいてOTAの影響は限定的であり、それが推薦ホテルの多様性とOTA上位群との乖離につながっていると考えられます。
示唆③:ニッチな魅力を持つOTA圏外のホテルには、AIO対策でダイレクトに予約獲得を狙えるポジションがある
示唆①②を踏まえると、OTA上位に入れていないホテルにとって、AIOは新たな顧客接点になりえます。KUMU金沢は「建築・インテリア」と「カップル・記念日旅行」の2軸で、箱根吟遊は「温泉」と「美味しい食事」の2軸で、それぞれ複数のサイトに一貫して語られていました。
重要なのは「ニッチな魅力を持っているかどうか」だけでなく、「その魅力が、旅行者の具体的なニーズに紐づく言葉で、複数の媒体に存在しているかどうか」 です。
示唆④:OTAが苦手とするニッチニーズを捉えたホテルが、ニッチクエリで躍り出る
OTAの検索ロジックは主に「価格」「立地」「評点」「レビュー数」など定量的な指標に基づいています。そのため「露天風呂から絶景が見える温泉旅館」「建築にこだわった誕生日向けホテル」「子供がのびのびできるリゾート」といったシチュエーション特化の訴求は、OTAの構造上発信しにくい情報です。
ニッチクエリで問われるのはまさにこの領域であり、まとめサイトでも十分に言及されていないニーズであれば、少ない情報量でもAIに拾われやすい状態を作れる可能性があります。OTA上位や大手まとめサイトへの掲載が難しい個性的なホテルこそ、ニッチクエリへの対応によってAIO時代の恩恵を受けられるポジションにあると言えます。
ホテル経営者は何をすべきか
ゲスト視点で自分の宿が紹介されている文脈を確認する。
まとめサイトや口コミで、自分の宿がどのように紹介されているかを確認しましょう。その上で、宿として打ち出したい主観的な強みとあわせて、宿の複数の強みを具体的に言語化しましょう。
強みを複数の媒体で発信する。
それぞれの強みについてまとめサイトや口コミサイトを含め、多種の媒体で発信しましょう。ゲスト自身の口コミも有効ですし、宿からの公式発信やマイクロインフルエンサーのSNS投稿、まとめサイトでの紹介も情報源になり得ます。
公式サイトを構造化して最新に保つ。
AI(そして人間)が強みの根拠を探しにいったときに判断しやすいよう、公式サイトの情報を整理・構造化して最新にしておきましょう。
FAQ
Q. OTAに上位掲載されていなくても、AIから推薦されますか?
はい、推薦されます。本調査では、OTA上位30位以内に入っていないホテルがAIから繰り返し推薦される事例が多数確認され、特にクエリがニッチになるとその傾向は強まりました(平均+18pt・最大+35pt)。
旅行者が「目的・属性・シチュエーション」を絞ってAIに問いかけると、AIはOTAのランキングとは異なる基準でホテルを選ぶ傾向があります。OTA上位に入ることとAIに推薦されることは、別の話です。
Q. どんな情報を発信すればAIに引用されやすいですか?
本調査のケーススタディから、2つの共通点が見えてきました。
1つは、強みが明示的に語られていること です。KUMU金沢は「建築・インテリアへのこだわり」と「カップル・記念日」という2つの軸で、箱根吟遊は「温泉」と「美味しい食事」という2つの軸で、それぞれ複数のサイトに言及されていました。AIはニッチクエリから複数のサブクエリを生成して横断検索し、特定のニーズへの対応が複数の媒体で語られているホテルが推薦されやすい構造になっています。
もう1つは、発信の媒体を絞りすぎないこと です。まとめサイトや口コミだけでなく、公式サイト・地域の観光サイト・アフィリエイトサイトなど多種のwebサイトが引用源として確認されました。人にとって魅力的なデザイン性よりも、AIが読みやすい構造化された情報であることの方が引用に影響する場合もあります。
Q. AIO対策とSEO対策は何が変わってきますか?
SEO対策は「特定のキーワードで検索順位を上げること」が目的です。対してAIO対策は「AIが特定の問いに答えるとき、自ホテルが当てはまると判断できる情報を届けること」が目的です。
最大の違いは、戦う土俵です。SEOでは検索キーワードに対してページを最適化しますが、AIOでは旅行者がAIに投げかける自然な問いかけ(「露天風呂があって料理が美味しい箱根の旅館を教えて」など)に対して、複数の情報ソースで自ホテルが語られていることが重要になります。
また従来のSEOでは、発見型クエリ("箱根 おすすめ旅館"など)において大手OTA・まとめサイトが検索上位を独占するため、ホテルが自らのコンテンツで露出を得ることは困難でした。しかし本調査では、公式サイトのコンテンツがAIの引用源として直接機能するケースが確認されました。AIO時代には、ホテル自身が発信する情報が新たな発見経路になりうる と考えられます。
ニッチな個性を発信すればAIは追い風になる
本調査は、「クエリがニッチになると、AIが推薦するホテルもニッチになる」という仮説を、5エリア・3AIのデータで定量的に検証しました。結果は仮説を支持するものであり、全エリアで例外なく確認されました。
以前の調査で明らかになった「OTAとAIの推薦は別物である」という事実は、本調査でさらに深まりました。旅行者がAIに具体的な条件を伝えるとその乖離は大きくなり、OTAのランキングでは可視化されなかったホテルが次々と浮上します。
一方で今回の調査は、単に「ニッチなホテルが有利」という話にとどまりません。今回の2つのホテルのケーススタディからは、どちらのホテルも、強みが旅行者が使いそうな具体的な言葉で語られており、それが複数の媒体にわたって存在しているという特徴がありました。つまり魅力があるだけでは不十分で、その魅力がAIに届く形で情報として配置されていることが条件になります。
ニッチな個性を持つホテルにとって、情報をきちんと配置すればAIO時代は追い風になりうる──これが本調査から導かれる結論です。大手OTAや有名まとめサイトへの依存から抜け出す道筋が、AIというインターフェースの普及によって現実的になってきたと言えるかもしれません。
終わりに
CHILLNN AIO Labでは、今後も調査を続けるとともに、世界各地でのホテルAI検索リサーチの紹介や宿目線での解釈を続けていきます。
CHILLNN AIO LabによるAIO対策にご関心のある方は、ぜひご連絡やSNSのフォローなどをいただければ幸いです。
引用文献